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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 2019年2月、企業および投資家向けに畜産動物の福祉に関するベンチマークを提供するBBFAWが、第7回目となる2018年度アニュアルレポートを公表した。

 2012年に初回のレポートを公表して以降、企業による畜産動物の福祉に関する業務慣行や報告内容は飛躍的に向上している。2018年度のレポートでは、畜産動物の福祉を業務戦略に不可欠な要素として組み入れている企業の数は2012年の3社(評価対象企業は68社)から2018年には17社(同150社)に増えた。また、2018年は全体の43%に当たる64社が取締役会または経営幹部が畜産動物福祉の取組状況を直接監視していると回答したほか(2012年は22%)、71%にあたる106社が課題に関する改善目標を公開している(2012年は26%)。

 一方、進捗がみられない分野もある。畜産動物の福祉に関する自社の方針をほとんど、あるいは全く開示していない企業は70社あった(ちなみに、これら70社の半数以上が今回初めてBBFAWのベンチマークの評価対象企業に加えられた)。また、評価対象企業150社のうち77社(全体の51%)は畜産動物の福祉への取組状況について何らかのデータを公表しているものの、自社の方針の実践状況を明確に開示している企業や、取り組みが畜産動物にもたらすメリットを正確に把握している企業は限られていた。

 企業による畜産動物愛護の取り組みが改善した背景には、投資家による関与がある。投資家はGlobal Investor Collaboration on Farm Animal Welfare(BBFAWが開催する協働エンゲージメント)や企業への直接のエンゲージメントを通じて、企業に畜産動物福祉に関する方針の策定や管理体制およびプロセスの導入を促し、成果の報告を開始するよう働きかけてきた。ベンチマークの評価対象となった多くの企業が、投資家の影響を受け、この改題に関するアプローチを採用したことを認めている。いまだ進捗がみられない企業が多くあることから、今後も投資家の果たす役割が引き続きカギを握っている。

 畜産動物の福祉に関しては、投資家が評価する際の観点と、企業によるビジネス課題としての捉え方に隔たりがある。BBFAW が企業に畜産動物の福祉をめぐる優先課題を3つ挙げるよう求めたところ、多い回答は「サプライヤーとの協働」、「評価/報告および動物福祉に関する指標の改善」、「閉鎖された飼育環境と放し飼い」「抗菌性物質の使用」であった。投資家には食品会社と協議するテーマについて聞いたところ、多い回答は「畜産動物の福祉をめぐる重要課題に関する特定の方針/スタンス」(全回答者の75%)、「畜産動物の福祉に関する企業の方針」(同58%)、「畜産動物福祉の管理体制とプロセス」(50%)であった。企業はリスクと機会の両方を重視している点も注目に値する。BBFAW調査では、食品会社が畜産動物の福祉を重視する主な理由として85%の企業が「顧客による懸念」を挙げ、「畜産動物の福祉をビジネスリスクと捉えているため」と「ビジネスチャンスと捉えているため」がそれぞれ73%、69%で続いた。投資家が投資実務およびプロセスで畜産動物福祉の課題に注目する理由は、回答者が多い順に「畜産動物の福祉を投資リスクと捉えているため」(73%)、「投資機会と捉えているため」(53%)、「顧客からの要請」(47%)であった。

 調査では複数の投資家が、畜産動物の福祉を優先する背景には強い倫理上の理由を挙げ、動物の苦痛の最小化や動物愛護の促進を重視する姿勢は経済的な理由だけによるのではないと回答した。しかし、投資家が企業とエンゲージメントを行う際には、より結果重視のアプローチをとるべきである。企業にとっては、いかに実質的なビジネス利益(リスク管理の強化、レピュテーションの向上、新たなビジネスチャンスの獲得、イノベーションなど)を創出し、社会的利益を生み出すかが主な課題である。これらは、長期投資家にとっても主要課題である。こうしたプロセスではベンチマークが重要な役割を担うとみられる。ベンチマーク自体は結果/影響をより重視するものへとシフトしている。つまり、単に管理体制やプロセスを重視するものから、企業がグローバルな食品サプライチェーン向けに飼育されている畜産動物の福祉に及ぼす影響をより重視する傾向が強まっている。

 また、企業が自社の方針を効果的に実行しているか、目的および目標を達成しているか、業務およびサプライチェーンにおける畜産動物の福祉を求める消費者の期待に応えているかを投資家が把握するためには、変化が不可欠である。Global Investor Collaboration on Farm Animal Welfareは企業に対してきめ細かなエンゲージメントを実践するなど既に方向転換を行っており、対応の遅れている企業には体制・プロセスの構築を促し、先駆的な取り組みを実施する企業には畜産動物福祉の取り組みを通じてビジネス利益の最大化を図るよう後押ししている。
 投資家は企業のコミットメントやプロセスの策定にとどまらず、それらが有効に機能して必要な変化をもたらしているかを厳しく検証するところまで対話を広げる時期が来ている。企業の取り組みの成果が明確になることで企業間の比較が可能になり、畜産動物の福祉に関して主導的にプラスの影響を与えている企業とそうでない企業の違いを把握することができるのである。


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【参照】
Responsible Investor, Rory Sullivan and Nicky Amos「How can investors accelerate company action on farm animal welfare? 」2019年3月11日(2019年3月28日情報取得)

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