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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 欧州委員会が2018年3月に「持続可能な成長に向けた、金融のEUアクションプラン(以下、EUアクションプラン)」と題した行動計画を公表してから1年が経過した。EUアクションプランは、2018年1月に公表された「サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ(以下、HLEG)」の提言を受け具体的な行動計画を10項目挙げている。

 2018年5月には、欧州委員会が「サステナブル活動のEU分類システム(タクソノミー)の構築」、「機関投資家とアセットマネージャーの義務の明確化と開示」、「ベンチマークの開発」、「金融アドバイスを提供する際のサステナビリティの組み込み」の4項目の行動計画をカバーする法整備案を公表した[1]。また欧州委員会は、35人の委員から成るテクニカル・エキスパート・グループ(以下、TEG)を設立した。TEGは①タクソノミー②グリーンボンド③ベンチマーク④情報開示の4グループで、法整備案の作成とEUアクションプランにかかわる実務作業に取組む。

 中でも注目を集めているのは、企業や投資家などに向けた「グリーンとは何か」を理解しやすくするために作成する「グリーンタクソノミー」である。グリーン投融資を促す金融機関の自己資本比率規制の取り扱いの緩和の検討(欧州では「グリーン・サポーティング・ファクター」として議論が続いている)は法整備案からは外された。しかし、タクソノミーで「グリーンとは何か」という定義が定められた時点で再び議論される可能性がある。

 一部では不満の声もある。HLEGの提言は、短期主義への対応、投資家の義務の明確化、より広範な社会とサステナビリティに関わる提言など、体系的に数多くの所見を示していた。しかし、欧州委員会は商品開発の余地がある分野を最も重視し、検討対象が幅広い「サステナビリティ」ではなく、タクソノミー、低炭素投資インデックスの作成、グリーンボンドラベルおよび基準の開発など、気候変動に絞っているためである。

 2019年2月末、欧州議会、欧州委員会および欧州連合理事会は、EUアクションプランの法整備案について初めて政治レベルで協議を行った。この動きは重要な意味を持つ。進展のスピードが極めて速いことに加え、HLEGの提言が「政治レベルの協議やロビー活動を通じてかなり希薄化され、最終的にニッチ分野に限られた意味のないものになりかねない」との、市場や一般社会の間で広がりつつあった懸念を覆す動きだからである。 実際、ベンチマークをめぐる協議では、欧州議会が提出した修正案をEU理事会が事前に承認していたこともあり、当初の法整備案より野心的で広範囲にわたる内容となった。これは、(最終的に提出されるのかは不透明だが)タクソノミーおよび情報開示の強化についての協議の行方に懐疑的な見方を持つ人にとっては明るい材料となった。

 こうした協議や法整備案はEUの立法手続き(ラムファルジー方式と呼ばれる)における「レベル1」に相当する。アクションプランには「レベル2」の段階に進んでいる提案もあり、TEGが主導して法整備案の具体的な内容とその導入方法に関するテクニカルなガイダンスの策定に力を注いている。

  今後、TEGは2019年6月に欧州委員会へ最終報告書を提出する。欧州委員会は2019年の夏に、同報告書のヒアリングを行い、①TEGの様々な提言をいかに実現するか②任期を6ヵ月間延長して作業の支援を続けるかを決定する。複数の暫定審議、ステークホルダーの会議、政治レベルの協議および選挙なども予定されている。中でも2019年5月には新欧州議会の形勢を決める選挙が実施され、その後11月には現職のジャン=クロード・ユンケル氏に代わる欧州委員会の新委員長が任命される。新体制の顔ぶれによっては、サステナビリティをめぐる取り組みが大きく後退するおそれもあるが、関係者によるとさほど懸念する必要もないようだ。提案の支持者は協議を早期に完了すべく急ピッチで取り組んでいる。 

 レスポンシブル・インベスターは、欧州委員会が1年前に提示した行動計画を検証し、現時点の進捗状況と次のステップに関する記事を順次発表していく。また、EUアクションプランについての過去の記事も期間限定で無料公開している。これらを通じて、EUにとってランドマークとなる規制プロジェクトの背景や影響についての知識が広く共有されることが期待される。レスポンシブル・インベスターの記事はこちら


[1] European Commission, May 28 2019, Commission legislative proposals on sustainable finance

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【参照】
Responsible Investor, Sophie Robinson-Tillett「EU Sustainable Finance Action Plan: What is the state of play one year in?」2019年3月1日(2019年3月14日情報取得)

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