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 「被用者年金一元化法」が施行されたことにより、2015年10月1日から被用者年金制度が一元化された。国家公務員共済年金、地方公務員共済年金および私学共済年金に加入している公務員等および私立学校教職員の被用者は、厚生年金に加入することになった。また、共済年金の3階部分(職域部分)が廃止され、新たに「年金払い退職給付」が創設された。

 これに伴い、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会および日本私立学校振興・共済事業団(以下、三共済)は、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)と同様に、厚生年金保険法第79条の8等の規定に基づき、業務概況書を作成、公表することとなった。

 2017年7月7日、三共済は各々「平成28年度業務概況書」を公表した。以下、3回に分けて三共済の業務概況等について概説する。「平成28年度業務概況書」は、「平成27年度業務概況書」と比較して株式議決権行使の状況が詳しく記述されているとともに、GPIFと同様「保有全銘柄」を公表している。

国家公務員共済組合連合会

 国家公務員共済組合連合会(以下、KKR)は、国家公務員共済組合法に基づき設立された法人で、現在は国家公務員等で組織される20の共済組合をもって組織されている。KKRでは、厚生年金保険給付事業、退職等年金給付事業、経過的長期給付事業および福祉事業を共同で行う。主務大臣は財務大臣である。長期組合員数は106万4千人、年金受給権者数は127万9千人となり、成熟度は120.2%と年々高まっている。(平成27年度事業状況報告書より)

【KKRの年金積立金の運用】

 年金積立金は2017年3月末現在、厚生年金保険給付積立金6兆7,407億円、退職等年金給付積立金1,588億円および経過的長期給付積立金7,533億円の合計7兆6,528億円となり、その全額をKKRが運用している。従来、長期給付事業として「長期給付積立金」を運用してきたが、被用者年金制度の一元化に伴い、KKRの年金積立金の運用は次の通りとなった。

  • 厚生年金保険給付積立金

 国家公務員共済年金のいわゆる1階および2階部分に相当し、厚生年金保険事業の共通財源として一体性を確保しつつ、自主性および創意工夫を発揮する積立金のことである。モデルポートフォリオとの整合性を持つ。

  • 経過的長期給付積立金

 国家公務員共済年金の旧3階部分で、今後保険料収入がない、いわゆる「閉鎖年金」である。キャッシュアウト対応重視のため基本ポートフォリオの資産配分割合は国内債券100%で、自家運用を原則としている。

  • 退職等年金給付積立金

 新3階部分で、キャッシュバランスプランによる積立方式で新たな保険料収入による積み上げを行う。積立不足回避のため、保守的な運用をする。基本ポートフォリオの資産配分割合は国内債券100%である。自家運用を原則とし、一部委託運用できるものとする。

【管理運用方針の制定(2015年10月1日制定)】

 KKRの年金積立金の管理運用は、厚生年金保険法第79条の6第1項等の規定に基づき、「厚生年金保険給付積立金の管理運用方針」、「退職等年金給付積立金の管理運用方針」および「経過的長期給付積立金の管理運用方針」を制定し、基本的な指針(以下、積立金基本指針)に適合する。

【平成28年度業務概況書】

 平成28年度業務概況書は、「厚生年金保険給付積立金」、「経過的長期給付積立金」および「退職等年金給付積立金」のそれぞれについて公表された。

厚生年金保険給付積立金

① 運用実績
  A.  収益率: [修正総合収益率] 5.38%(国内債券:1.42%、国内株式:15.13%、外国債券:▲5.28%、外国株式:14.16%)
                            [実現収益率] 2.36%   

  B.  収益額: [総合収益額] 3,500億円(国内債券:532億円、国内株式:1,610億円、外国債券:▲186億円、外国株式:1,544億円)
          [実現収益額] 1,434億円   

  C. 2016年度末の運用資産額は6兆7,407億円

  D. 年金財政上求められる運用利回りとの比較:2016年度の実質的な運用利回り(5.35%)は、財政上の前提である実質的な利回り(▲0.35%)を上回っている。

② 資産構成割合
    国内債券 3兆4,976億円  (51.89%)  35%(±35%)
    国内株式 1兆2,415億円  (18.42%)  25%(±10%)
    外国債券 4,028億円     (5.98%)   15%(±10%)
    外国株式 1兆2,602億円  (18.70%)  25%(±10%)
         短期資産    3,386億円     (1.4%)
    合計   6兆7,407億円
(注)

1. 基本ポートフォリオは2015年10月1日に策定した管理運用方針において定めたもの

③ 被用者年金制度一元化法の施行に伴う積立金の確定仕分け
    2015年9月30日時点の長期給付積立金(時価)7兆8,127億円
    2015年10月1日時点の厚生年金保険給付積立金(時価)7兆519億円
    2015年10月1日時点の経過的長期給付積立金(時価)7,609億円
(参考)
【概算仕分け】国家公務員共済の積立金概算仕分け額(厚生年金保険給付積立金)= 2015年度の1・2階支出の見込額(1.5兆円)× 概算政府積立比率(4.9年)= 7兆1,116億円
【確定仕分け】国家公務員共済の積立金確定仕分け額(厚生年金保険給付積立金)= 2015年度の1・2階支出額(1.4兆円)× 政府積立比率(5.15年)= 7兆0519億円
 2016年12月1日において、政府積立比率等が確定したことにより、厚生年金保険給付積立金から経過的長期給付積立金へ精算額として600億円(うち利子相当額3億円)を移管した。

④ 基本ポートフォリオ
   2015年10月1日に策定した「管理運用方針」において、基本ポートフォリオは、国内債券35%(±30%)、国内株式25%(±10%)、外国債券15%(±10%)、外国株式25%(±10%)と定めた。
基本ポートフォリオにおいて、財投預託金および共済独自資産は国内債券に含まれ、短期資産は各資産の乖離許容幅の中で管理している。基本ポートフォリオを踏まえた資産移動が必要であることから、当面、乖離許容幅を超過することがあるとしている。

⑤ リスク管理
 「運用リスク管理方針」および「運用リスク管理要領」の制定とともに理事長を委員長とする「運用リスク管理委員会」を設置している。

⑥ 運用手法別の運用状況
 2016年度における各資産別の時間加重収益率とベンチマーク収益率の状況は業務概況書29ページを参照のこと。

⑦ 委託手数料の状況
 13.6億円

⑧ スチュワードシップ責任
 2014年5月30日「スチュワードシップ責任を果たすための方針」を策定し、保有する株式に関して制定した「コーポレートガバナンス原則」に沿ってコーポレートガバナンス活動を実施した。2016年度の実施状況としては、国内株式運用受託機関すべてがスチュワードシップ・コードの受入れを表明していることを確認し、運用受託機関に対して投資先企業別に対話内容および企業側の回答等具体的な報告を求めた。

⑨ 議決権行使
 2005年6月15日に「コーポレートガバナンス原則」を制定している。議決権行使に関しては、「株主議決権行使にかかるガイドライン」に従い、運用受託機関から議決権行使ガイドラインの提出を受け、行使状況について報告を求め、その取組みを確認している。2016年度については、運用受託機関から議決権行使状況について報告を受け、ミーティングを実施した。
国内株式:2016年4月から2017年3月では、運用受託機関数36ファンドすべてにおいて議決権を行使した。
外国株式:2016年4月から2017年3月では、運用受託機関数21ファンドにおいて議決権を行使した。議決権を行使しなかった運用受託機関は1ファンドであった。

⑩ 主要な取組

  • 2017年1月から自家運用による外国債券への投資の開始
  • オルタナティブ投資に関するマネジャー・エントリー制(公募)を導入し、応募案件を精査
  • 運用受託機関等の選定および管理の状況

  外国債券アクティブ運用マネジャー7社選定
  トランジション・マネジャーを3社選定

⑪ 委託運用状況
 リスク資産の運用について、信託銀行および投資顧問会社計23社(58ファンド)に運用を委託している。内訳は、国内株式26ファンド(パッシブ:8、アクティブ:18)、外国債券12ファンド(パッシブ:4、アクティブ:8)、外国株式20ファンド(パッシブ:6、アクティブ:14)となっている。

 委託運用額は、2016年度末時点で2兆8,747億円(パッシブ:79.8%、アクティブ:20.2%)と、総資産額の42.6%となっている。内訳は、国内株式1兆2,415億円(パッシブ:75.1%、アクティブ:24.1%)、外国債券3,730億円(パッシブ:84.1%、アクティブ:15.9%)、外国株式1兆2,602億円(パッシブ:82.4%、アクティブ:17.6%)となっている。

⑫ 保有銘柄の状況
 2017年3月末時点で運用受託機関への投資一任契約および単独運用指定包括信託契約により間接的に保有しているものならびに自家運用で保有しているもの(債券のみ)を、債券は発行体ごと、株式は銘柄ごとに集約したものの上位10位を開示している。11位以下については、KKRのホームページを参照のこと。

<国内債券保有銘柄 発行体別(時価総額順)>
 日本国、東京電力HD、欧州投資銀行、中部電力、関西電力、日本高速道路保有・債務返済機構、住宅金融支援機構、KDDI、九州電力および第2回財政融資マスタートラスト特定目的会社。25発行体、5,673億円

<外国債券保有銘柄 発行体別(時価総額順)>
 米国、フランス、イタリア、英国、ドイツ、スペイン、オーストラリア、カナダ、ベルギーおよびオランダ。335発行体、4,000億円

<国内株式保有銘柄(時価総額順)>
 トヨタ、三菱UFJFG、NTT、ソフトバンク、三井住友FG、ホンダ、KDDI、みずほFG、ソニーおよびキーエンス。全銘柄数は2,176銘柄、1兆2,459億円

<外国株式保有銘柄(時価総額順)>
 アップル、マイクロソフト、アマゾン、ジョンソンアンドジョンソン、フェイスブック、エクソン、JPモルガンチェース、アルファベット(C)、ウェールスファーゴおよびアルファベット(A)。全銘柄数は3,118銘柄、1兆2,443億円

【退職等年金給付積立金】

① 運用実績
  A. 収益率:3.42%
  B. 収益額:35億円
  C. 2016年度末の運用資産額は1,588億円
(注)
1.目標運用利回りとする予定利率0.48%(基準利率0.43%)を上回っている

② 資産構成割合
   国内債券 1,552億円 (97.71%)  100%
      短期資産    36億円 (2.29%)
    合計   1,588億円
(注)
1. 基本ポートフォリオは2015年10月1日に策定した管理運用方針において定めたもの
2.退職等年金給付制度はキャッシュバランスプランによる積立方式にて創設されたものであり、目標となる利回り(基準利率)以上での確実な運用が要請されるという制度の特性を踏まえ、国内債券(財投預託金を含む)を中心に安定的なインカムゲインおよび元本回収がなされる資産を保有することとしている

【経過的長期給付積立金】

① 運用実績
  A.   収益率:3.76%
  B.   収益額:252億円
  C. 2016年度末の運用資産額は7,533億円
(注)
1.運用利回り3.76%は、目標利回りである2014年財政再計算で想定された2016年の名目運用利回り2.17%を上回っている

② 資産構成割合
    国内債券 6,255億円 (83.04%)  100%
      短期資産  1,278億円 (16.96%)
    合計   7,533億円
(注)
1.基本ポートフォリオは2015年10月1日に策定した管理運用方針において定めたもの
2.経過的長期給付制度が閉鎖型年金制度であり、比較的早期に積立金の規模が縮小する見込みであるという制度の特性を踏まえ、国内債券(財投預託金を含む)を中心に安定的なインカムゲインおよび元本回収がなされる資産を保有することとしている

 

【参考資料】
平成28年度業務概況書【厚生年金保険給付積立金】(2017年7月7日 国家公務員共済組合連合会)
保有全銘柄について(平成28年度末)(2017年7月7日 国家公務員共済組合連合会)
スチュワードシップ活動の状況等について(2016年10月 国家公務員共済組合連合会)
平成28年度業務概況書【退職等年金給付積立金】(2017年7月7日 国家公務員共済組合連合会)
平成28年度業務概況書【経過的長期給付積立金】(2017年7月7日 国家公務員共済組合連合会)
厚生年金保険給付積立金の管理運用の方針(2015年10月1日制定 国家公務員共済組合連合会)
退職等年金給付積立金の管理運用方針(2015年10月1日制定 国家公務員共済組合連合会)
経過的長期給付積立金の管理運用方針(2015年10月1日制定 国家公務員共済組合連合会)
積立金の管理及び運用が長期的な観点から安全かつ効率的に行われるようにするための基本的な指針(2014年7月3日 総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省告示第1号)
平成27年度事業状況報告書(2016年7月15日 国家公務員共済組合連合会)
平成28年度事業状況報告書(2016年6月30日 国家公務員共済組合連合会)


QUICK ESG研究所 菅原 晴樹