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 本稿は、レスポンシブル・インベスター(RI)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 ロシアのウクライナ侵攻を機に、今後欧州のサプライチェーン全体で大規模な現代奴隷が発生する恐れがあることを投資家は覚悟しておくべきだろう―こう警告するのは、投資顧問会社ラスボーンズでスチュワードシップ・ディレクターを務めるマット・クロスマン(Matt Crossman)氏である。

 同氏は、ラスボーンズが主導役となって「現代奴隷への反対票」を呼び掛けるエンゲージメント活動が5日に第3弾のイニシアチブを立ち上げたことを受け、RIの取材に応じた。

 このイニシアチブに参加する投資家の運用資産総額は9.6兆ポンド(12.6兆ドル、11.5兆ユーロ)に上る。2022年の目標として、FTSE 350種総合株価指数の構成銘柄のうち現時点で英国現代奴隷法54条に準拠していない企業43社をエンゲージメントの対象にすることを掲げている。同法54条は年間売上高が3,600万ポンド以上の企業に対し、自社の事業およびサプライチェーンにおける現代奴隷撲滅に向けた取り組みの内容を声明にして毎年発表するよう義務づけている。

 同イニシアチブが5日に発表した声明によると、同法に準拠しない理由は多岐に及ぶとみられ、声明に対する取締役会の明確な承認が得られていないケース、声明が毎年更新されていないケース、取締役の署名が得られていないケースなどが考えられる。

 ここ数年はエンゲージメントの成功例も見受けられ、2021年のエンゲージメント対象だった61社(FTSE350種構成銘柄)が2022年1月までに同法に準拠した。2020年には、エンゲージメント対象22社のうち20社が年末までに同法への準拠を果たした。

 クロスマン氏はロシアのウクライナ侵攻やそれに伴う大量の避難民の発生といった現下の地政学的状況を踏まえ、労働搾取のリスクが高まったとの見方を示した。「既に390万人が避難している。難民や弱い立場の人々が身を置く場所には犯罪分子が入り込み、説明責任と法執行が果たされない状態に陥るのが常であり、現代奴隷の温床となりかねない。これに対して我々が警戒を怠れば、欧州のサプライチェーン全体で大規模な現代奴隷が発生する恐れがある。我々はこうした事態に備え、この問題に関する企業へのエンゲージメントを強化する必要がある」と述べた。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の小麦取引量の25%超をロシアおよびウクライナ産小麦が占めているほか、ヒマワリ油と大麦についても両国産の割合はそれぞれ60%超、30%となっている。これを踏まえてクロスマン氏は、「農産物のサプライチェーンは、強制労働や現代奴隷のリスクが最も高い分野の1つである。我々は、こうした高リスクセクターのサプライチェーンの混乱や変化を警鐘と捉えるべきだろう」と指摘している。

 今後の動きについては、「英企業に現代奴隷はサプライチェーンのリスク管理における中心的な問題であり、それらを積極的に特定し、対策と防止策を講じる方針を改めて表明するよう促すことが、我々の喫緊の優先課題である」と述べている。

 ラスボーンズが書簡を送ったエンゲージメント対象企業のうち、既に複数の企業は対応の改善方法を探るための対話に応じ始めている。

 クロスマン氏は、「たいていの場合、企業側は我々の意見を聞き、エンゲージメントに応じているが、そうした姿勢を見せない企業に対しては、イニシアチブの参加メンバーが年次報告書や財務諸表の承認に反対票を投じる意向を示唆することで暗黙の圧力をかけることもある」と説明した。一方で、ダイベストメントを行うことは選択肢にないと述べた。

 同氏は政策面について、英当局が英国現代奴隷法改正案をめぐる審議で出された提言を早期に実行に移すことを望むとし、「政府は規制を強化し、情報開示しない企業に罰則を科すべきである。我々のエンゲージメント活動による強制力と影響力は相対的に小さく、現時点で我々にできるのは取り組みの遅れている企業に働きかけることくらいである」と説明している。

 英国の独立反奴隷コミッショナーのサラ・ソーントン(Sara Thornton)氏はこれまでも政府に対し、現代奴隷法54条を強化して適用対象を投資ポートフォリオにも広げることを明記するよう求めていた。

 クロスマン氏は透明性の向上は良いことだが、そもそも情報開示を意味のあるものにするだけのデータがないのが現状であるとみている。

 欧州委員会は今年初め、特定の企業に対して人権・環境デューディリジェンスを義務づける指令案をようやく発表した。英国も同様の義務を課すべきかどうかについてクロスマン氏は人権デューディリジェンスの義務化を支持するラスボーンズの姿勢を強調しつつ、「我々は、現代奴隷に関する情報開示に焦点を絞るべきと考える。加えて、デューディリジェンスという幅広い枠組みの中で現代奴隷の議論を埋没させてはならない」とも述べている。


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【参照】Responsible Investor,  Gina Gambetta「Rathbones: 'If we are not vigilant, we could see a tsunami in modern slavery」2022年4月5日(2022年4月20日情報取得)


QUICK ESG研究所