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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 60近くの機関投資家が、中国の新疆ウイグル自治区と関わりを持つ可能性のある投資先企業に「重大な人権リスク」への対応を求める方針を明らかにした。

 米国の宗教機関の連合体であるICCR(Interfaith Center on Corporate Responsibility)傘下のイニシアチブ「Investor Alliance for Human Rights(以下、IAHR)」による取りまとめのもと、運用資産総額4.4兆ドルを擁する投資家グループが、アマゾン、グーグル、ヒューゴ・ボス、ナイキなどの有名企業を含む40超の企業に対して、サプライチェーン上の取引関係を明らかにし、人権侵害に関与している取引先をいかに排除しているか示すよう求める書簡を送った。また、人権侵害の被害者救済に向けた取組みを含め、情報開示を強化することも要請した。

 ここ数年、新疆自治区のウイグル人イスラム教徒に対する人権侵害は国際社会で議論の的となっており、米国、EU、英国およびカナダが制裁措置を発動している。マークス&スペンサーをはじめとする小売業者の間では、強制労働に関与しているサプライヤーとの関わりを断つことを約束する動きも既にみられる。

 今回のキャンペーンに先がけ、IAHRは2020年夏に人権問題と中国に関する投資家向けガイダンスを発行した。その後IAHRは、有名ファッションブランドのVFコーポレーションやインディテックスを含む複数のブランドが「中国政府からの商業的な報復措置を恐れて」自社のウェブサイトから強制労働に反対する方針の記載を削除したと指摘している。こうしたブランド側の懸念には根拠があり、2021年3月のニューヨーク・タイムズの記事によると、ナイキ、H&Mやバーバリーなどのブランドは強制労働への反対声明を発表したことが原因で不買運動を受けている。

 「より懸念されるのは、アシックス、無印良品、フィラ、ヒューゴ・ボスといったブランドである。これらの企業は、新疆ウイグル自治区における人権侵害が広く報告されているにもかかわらず、ウイグル産綿花の調達継続を公言しているからだ」とIAHRのプログラムディレクターのアニタ・ドレット(Anita Dorett)氏は指摘し、「ウイグル産の長繊維綿の品質は世界でもトップクラス」としたヒューゴ・ボスによる最近のコメントを紹介した。

 ドイツのファッションメーカーであるヒューゴ・ボスは、「我々は長年にわたり『1つの中国原則』を尊重し、中国の国家主権と領土の保全を断固として守ってきた」と述べている。アシックスの声明もほぼ同じ内容で、「当社は常に1つの中国原則を堅持し、(中国の)主権と領土を断固として守る」としている。

 ドレット氏は、「賛同を得るまでに時間はかかったが、投資家はこの問題に対する懸念を強めている。投資先企業が人権問題と関わりがないか、新疆ウイグル自治区またはサプライチェーンが同自治区とつながりのある中国外の地域での取引に関与していないか確かめるため、運用ポートフォリオの見直しを進めている」とも話した。

 IAHRへの加盟を公表している機関投資家はノルウェー金融大手ストアブランドの運用子会社であるストアブランド・アセットマネジメントと米国のボストン・コモンの2社のみで、残りの投資家は「地政学的リスク」を理由に公表を控えている。だがIAHRは「水面下では他の加盟機関の中には今回の書簡への反応を受けて企業との対話を開始したところもある」としている。

 また、中国のESG課題に関するエンゲージメント活動を強化している投資家グループはIAHRだけではない。中国政府が国際金融に門戸を開くなか、世界中の責任ある投資家は、自社の中国株の保有比率が上昇している事実を認識している。背景には、株式投資のベンチマークとなる指数のプロバイダーが最近行った構成銘柄の見直しで中国銘柄を採用したためであるが、これを機に新たなESG課題を考慮するようになったのだ。

 株主エンゲージメントイニシアチブである「Climate Action 100+ (以下、CA100+) 」は、2017年の発足時から中国で積極的な活動を行ってきたが、イニチアチブの中国でのリーダーを務めるレベッカ・ミクラ・ライト(Rebecca Mikula-Wright)氏によると、ここ1年半は特に活動の機運が盛り上がっている。

 気候変動対応のためアジア太平洋地域の金融機関や投資家で構成する「Asia Investor Group on Climate Change(以下、AIGCC)」のエグゼクティブディレクターは、中国に本拠を置く企業のうち CA100+がターゲットとしている8社に対するエンゲージメント活動の成功例を挙げた。例えば、ペトロチャイナは2020年、2050年までに温室効果ガス排出量を「ほぼゼロ」にし、再生可能エネルギーへの投資拡大に取組むことを明らかにした。同業の石油大手シノペックも気候変動に関する調査と対策を強化し、水素事業を加速する方針を示した。さらに中国海洋石油(CNOOC)も、排出量ネットゼロ達成に向けた戦略の策定と洋上風力発電事業の強化を打ち出している。

 しかし、こうした誓約はいまだ大きな進展を見せていない。CA100+が最近行ったターゲット企業の評価によると、中国企業8社のうち5社は進捗状況を示す主要基準を1つも満たしていないことがわかった。残りの3社は一部の基準を「部分的」に満たしているとした。

 中国国内でこれらの企業に対するエンゲージメント活動を行う投資家が増えていることが状況の改善につながる可能性もあるとミクラ・ライト氏は期待する。さらに、「現在、CA100+の署名機関のうち中国に本拠を置く機関投資家は7社ある。そのうち保険会社の平安保険金融グループ(以下、Ping An)とChina Asset Management CoはCA100+のAsia Advisory Groupのメンバーでもある」とし、「これら国内投資家の多くは知識のレベルが高く、リーダーの下で社内の能力開発が迅速に進んでいる」と説明した。

 また、投資家が中国国債を保有することで、当局の政策立案に影響を及ぼす可能性もある。ブルーベイ・アセット・マネジメントの新興市場ソブリン・リサーチ担当パートナーのグラハム・ストック(Graham Stock)氏は2021年1月に実施したレスポンシブル・インベスターの取材に対し、「55の機関投資家(運用資産総額は7兆ドル)が参加するイニシアチブである『森林破壊に関する投資家の政策対話(Investors Policy Dialogue on Deforestation)』は、今後は活動の主眼を森林破壊や持続不可能な大豆の生産および利用をめぐる政府とのエンゲージメントへと移す可能性がある」と答えている。

 責任投資への流れは資産フローにも影響を及ぼしており、それが中国の企業(および政府機関)にとって無視できないもう1つのインセンティブとなっている。

 Ping Anが2021年に行った調査では、 中国のESGをテーマとする上場投資信託(ETF)への資金流入額は2018年から2019年にかけて464%も増加しているほか、「純粋なESG指数」への流入額は2020年に倍増したことがわかった。また、中国国内のESG関連ファンドの時価総額は2019年以降36%増加している。

 一方で、中国のESG評価・格付け大手のSyntaoによると、2020年にはCSI 800指数構成銘柄のうちESG銘柄の株価パフォーマンスは環境関連が7%、社会が3%、ガバナンスが4%それぞれ改善した。だが、指数構成銘柄の61.6%は今なおESGをめぐる紛争に関与しており(その多くは公害、商品・サービス上の問題、企業倫理など)、この先の道のりが長いことが伺える。

 「組織内部の能力を強化するための専門チームを立ち上げた金融機関もあるが、リサーチから商品戦略、エンゲージメントに至る分野では、多くの金融機関の取組みはいまだ初期段階にある」と、中国サステナブル投資フォーラム(China Social Investment Forum)の事務局長でSynTao Green Financeの副部長も務めるグレース・グアン(Grace Guan)氏は説明する。

 状況の改善に向けて、AIGCCは中国の気候変動対策に関するトレーニングプログラムの整備を進めており、加盟機関が気候問題をめぐる市場および当局の動きを理解した上で自らの投資戦略に組み入れられるよう支援している。

 「中国の企業、特に国有企業は他のグローバル市場に比べて当局の政策による影響を受けやすい。従って習近平主席が2020年に、2060年までに排出量ネットゼロを目指す方針を明示し、そのための新たな政策が既に打ち出されている現状は、エンゲージメント活動への重要な新しい道を開き、企業に気候変動対策のより野心的な目標および計画の策定を促すものとなるだろう」とミクラ・ライト氏は述べた。


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【参照】
Responsible Investor, Gina Gambetta「Taking on China: How are responsible investors engaging with the powerhouse」2021年5月17日(2021年5月26日情報取得)


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