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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 英国の改訂スチュワードシップ・コード(以下「コード」)が2020年1月1日付で発効され、英国の預金および年金資産を運用する金融機関のスチュワードシップ活動と情報開示に高いハードルが課せられた。

 同コードは年金基金、保険会社、アセットマネジャーとサービスプロバイダーにも適用される。コードはスチュワードシップを、「経済、環境、社会への持続可能な利益をもたらすような顧客 と最終受益者に対する長期的な価値を生むための、資本の責任ある分配、管理、監督のこと」(金融庁仮訳)と定義している。

 今回の改訂により、コードは世界的にみても最先端のものになった。

 新コードの署名機関となるためには、過去1年間の同コードの遵守状況について記載した、スチュワードシップ報告書をFRCに提出する必要がある。最初の公式な報告書は2021年初めに提出されるが、アセットマネジャーやアセットオーナーの間では既に新コードに対応した報告書の作成に着手しているケースもみられる。

 FRC(英国財務報告評議会)は、コードへの署名を検討している機関が改定後の報告要件を満たすための手引きとして参照できる、「Review of Early Reporting」(以下「レビュー」)を公表した。レビューでは、情報開示の好事例を挙げて有効なアプローチを幅広く紹介し、情報開示における改善点を明示している。

 レビューの対象となったのは、21の責任投資報告書、アクティブオーナーシップ報告書、スチュワードシップ報告書で、コード署名を検討中の機関が改訂版で定められたよりハイレベルな基準にどの程度対応できているかチェックした。

 レビュー対象となった報告書の大部分はアセットマネジャーのものだったが、レビューの指摘事項の多くはアセットオーナーやサービスプロバイダーにも関連するものだった。レビュー結果は前向きな内容だった。将来の署名機関が既に改訂コードの要件を満たすための取り組みを強化し、自らの現状、アプローチおよび情報開示の手法を見直していることは明るい兆候である。

 質の高い報告書は、各組織の目的と信念について明確に説明し、それらと報告対象期間中に実践したスチュワードシップ活動の関連性について、明確に情報開示を行っている。レビューでは、スチュワードシップ活動に関する好事例やケーススタディが報告されているが、特にエンゲージメントや協働エンゲージメントで優れた成果を上げた事例を紹介する報告書が見られた。 

 また、スチュワードシップ、ESGおよび投資をうまく統合させている事例もみられた。優れた情報開示は、定量的・定性的情報の両方を十分に活用している。定量的な情報開示はいかに一貫性のあるアプローチがとられているかを示すのに対し、事例やケーススタディは、スチュワードシップ活動が実際にどのように機能しているかについて深い理解と知見を与えるものである。また、プロセス、エンゲージメントレポート、議決権行使の要約情報を、グラフで的確に提示している好事例もあった。

 こうした良い兆候もみられたとはいえ、署名を検討している機関の活動と情報開示はなお改善の余地が大きい。全ての報告書は、コードが定める全ての原則と開示要件をいかに適用しているか説明する必要がある(apply and explain 「適用し、かつ説明せよ」の原則)。

 またFRCは、スチュワードシップ報告書が各機関のアプローチを立証するエビデンスを提示し、スチュワードシップ活動についての声明を裏づける内容になることを目指している。これは、報告書が、方針や声明を謳うだけのものから、活動・成果の報告書へと進化するための重要なカギとなる。

 さらに、投資家はあらゆるアセットクラスについて情報開示する必要がある。ただ、上場株式以外のアセットクラスに関する情報開示の手法はいまだ成熟段階にない。債券、不動産またはマルチアセットファンドに投資する顧客や預金者は、この点についても動向を注視すべきだろう。

 上場株式に関しても、アプローチの違いを明らかにする情報がより多く開示されることを期待している。ESG/サステナブル/責任投資に特化するファンドはスチュワードシップについて詳細に説明しているが、あらゆるファンドの受益者が当該ファンドでスチュワードシップがどのように機能しているのか理解できるようにすることが望ましい。開示内容は公正でバランスがとれ、理解可能であるべきだ。

 そのためには、あらゆるアセットクラスおよび地域をカバーした各機関のスチュワードシップの方向性の進展状況を透明化するだけでなく、成功と失敗の両方を認識し、今後の改善余地について説明することが重要である。

 今回のレビュー結果は概ね前向きなものであり、FRCはコードへの署名を検討している機関にとってこれが情報開示の手引きになることを期待している。既にコードの原則に準じた情報開示を開始している投資家には敬意を表したい。

 多くの投資家がコードの精神に賛同し、これに照らして自らの業務慣行や情報開示を見直していることには勇気づけられる。コードの適用とそれに基づく情報開示を目指して真剣に取り組んでいる事例のほか、優れた情報開示を実践しているケースを特定できたことは喜ばしい。

 FRCは、改訂コードの下で提出される初めての報告書が質の高い有益なものとなり、預金者および受益者の資金が有効な投資に振り向けられていることを明らかにする一助になることを強く望んでいる。

 改訂コードは、署名申請する機関による新たなスチュワードシップ報告書の作成をサポートし、スチュワードシップの「センター・オブ・エクセレンス」としての英国の評価を向上させるための重要なツールとなるだろう。投資業界でコードの採用が広がれば、ビジネス活動の場としての英国の魅力が高まり、英国の経済、環境および社会に幅広く実質的な便益をもたらすとみられる。

 FRCは、スチュワードシップ活動の基準を向上させるツールとしてのコードの有効性をモニタリングし、コードが対話の質に及ぼす影響を理解してもらうために、企業をはじめとするステークホルダーへのエンゲージメントを推進していく。


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【参照】
Responsible Investor, Claudia Chapman「Financial Reporting Council: Review of early reporting against new Stewardship Code」2020年11月5日(2020年11月27日情報取得)

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QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】スチュワードシップ再考 - 英国SSコードの改訂を読み解く」(2019年12月5日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1088
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】 分析:改訂版英国スチュワードシップ・コードは事実上の「ESG」コードへ  遵守状況を監督する政府機関の設立が不可欠」(2019年11月19日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1082 


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