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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 英国最大の慈善ファンドマネジャーCCLA Investment Managementは、責任投資原則(PRI)と英国の投資運用業界団体The Investment Associationの支援を受け、現代奴隷制の根絶に取り組む投資家イニシアチブ「Find It, Fix It, Prevent it」の発足をロンドン証券取引所で発表した。

 Climate Action 100+の手法を踏襲し、「Find It, Fix It, Prevent it」の指名を受けたリード・インベスターとサポート・インベスターが、上場企業に対しサプライチェーン上の現代奴隷制根絶を目指しエンゲージメントを行う。

 まずは、サービス・接客業を対象にエンゲージメントを開始するという。また、企業の知識構築と政府に対するロビー活動も実施していく。参加機関は、イニシアチブの発足時に投資家声明への署名を求められた。

 国連の推計によると、現在約2500万人が強制労働、奴隷労働制または人身取引の被害に遭いながら生活している。これはオーストラリアの人口に匹敵する。

 CCLAのピーター・ヒュー・スミス (Peter Hugh Smith)CEOは, 「現代奴隷制は極東のスウェットショップ(Sweatshop:搾取工場)だけで起きている問題ではない。英国の農業セクターでも強制労働下に置かれている人々がいる。人身取引も起きている。世界のどこにでもある問題だ」と指摘する。CCLAは財政的な問題に直面し、イニシアチブが発展する過程で他の投資家も支援に加わることを期待している。現段階で推進運動に必要なコストが「数十万ドル」規模と見積もっている。

 CCLAの倫理的・責任投資部門を統括するジェームズ・コラ (James Corah)氏は、「イニシアチブは、現在の企業とポートフォリオの在り方を変えていくだろう。現状、投資業界における倫理的なリーダーシップがやや欠けていることも事実である」と指摘する。

 コラ氏は、企業との対話はまず「自社のサプライチェーンで奴隷労働が行われているか」と質問するところから始めるとし、「現代奴隷制はあらゆるサプライチェーンのどこかに必ず存在しているはずであり、この質問に対する正解は『イエス』だ。もし『ノー』と答えるなら、『徹底的に調査したのか?』と質問する」と述べた。

 イニシアチブは毎年「進捗報告書」を発表する計画だが、コラ氏によると、初回は取組みの遅い企業名を公表することはしないという。スミスCEOは、「我々はエンゲージメント対象企業を中傷したいのではない。現代奴隷制は恐ろしい行為だが、そのことで企業が中傷されれば、企業はサプライチェーンの調査を止めてしまうだろう」と指摘する。将来的には、先進企業と出遅れている企業の名前を進捗報告書で公開することを検討しているという。

 CCLAは、イニシアチブを拡大し、エンゲージメント対象をグローバルに展開することを目指す。

 ビジネス・人権資料センター(Business & Human Rights Resource Centre)やノッティンガム大学人権研究所といったNGOおよび学術機関もイニシアチブを支援する。

 今回のイニシアチブは、今年9月にCCLAと機関投資家Rathbone Brothersが、英国現代奴隷法の適用に関する英国政府への要請に協力するよう、他機関投資家に呼びかけたことをきっかけに発足した。運用資産総額2.4兆ポンドを擁する機関投資家からの支援をうけ、英国政府に対し、英国現代奴隷法を全ての上場企業に適用し、「報告を義務化するよう強く提唱する」と要求した。コラ氏によると、イニシアチブは、英国政府に対する要求内容を実現して「実効性のある現代奴隷法」にすることを目的に掲げている。

 人権および現代奴隷制をめぐっては、市場で影響力を持つ組織や、規制当局、NGOなどが相次いで変革を起こしており、今回のイニシアチブ発足はその直近の例である。

 今年9月には、PRIのフィオナ・レイノルズ(Fiona Reynolds)CEOが主導する官民協働イニシアチブ「リヒテンシュタイン・イニシアチブ」(The Liechtenstein Initiative)が「奴隷制と人身売買に対抗する金融(Finance Against slavery and Trafficking: FAST)」プロジェクトを立ち上げた。スウェーデンの公的年金AP2は、自前で定量データモデルを策定し、自らのポートフォリオが抱える人権リスクを包括的に把握する計画を明らかにした。更にスイス連邦議会は、国内企業に人権デューディリジェンスを義務づける法案を可決する見通しである。同法案に関しては、グローバルな機関投資家23社(運用資産総額3,600億ユーロ)が上院に対し、法案へ賛同するよう求めていた。


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【参照】
Responsible Investor,    Ella Milburn「Investors launch ‘Climate Action 100+ style’ modern slavery initiative」2019年11月12日(2019年12月12日情報取得)

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QUICK ESG研究所 「【RI特約記事】投資家グループがFTSE100指数採用の6社に英国現代奴隷法の遵守を要求」 2018年7月11日 https://www.esg.quick.co.jp/research/905
QUICK ESG研究所 「オーストラリア、自国版現代奴隷法の概要案を公表」2017年10月4日 https://www.esg.quick.co.jp/research/747
QUICK ESG研究所 「【水口教授のヨーロッパ通信】現代奴隷法 - サプライチェーンの人権リスク -」2015年11月11日 https://www.esg.quick.co.jp/research/93


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