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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 スイス大手銀行のクレディ・スイスは、米ダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)建設の資金調達に関わったことが、OECD多国籍企業行動指針における先住民族の権利侵害にあたるとして、NGOから告発を受けていた。OECDのスイスNCP(連絡窓口=連邦経済省経済事務局)を通じた2年にわたる調停の結果、クレディ・スイスはプロジェクトファイナンスの社内ガイドラインに先住民族の権利保護を盛り込むに至った。

 NCPは、OECD多国籍企業行動指針に基づき加盟国および準拠国に設置される法的拘束力を持たない苦情処理システムである。企業による同指針の違反の疑いがあれば、その企業が事業を営む国、または本社を置く国のNCPにだれでも通報できる。NCPは、当事者間の対話のあっせんや調停等を通じて問題の解決を図る。同指針はソフトローに位置づけられており、直近では2011年に改訂された。

 過去にはオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZグループ)やオランダの最大手行INGに対しても、NGOがNCPを通じて訴えを起こした。数年前にノルウェー政府年金基金を運営するNBIM(Norges Bank Investment Management) が、NGOグループからのNCPへの申立てを受けて韓国製鋼大手のポスコを投資先から除外したケースを機に、機関投資家から注目されるようになった。

 同行とは、NCPを通じてドイツ人権NGOのSociety for Threatened People (STP) と2年余りに及ぶ調停を経て、今回の決定に至った。STPは2017年4月スイス連邦経済相が管轄するスイスのNCPに対し、クレディ・スイスがDAPLの建設におけるファイナンスで主導的役割を果たしており、デューデリジェンスを怠り、ビジネスパートナーへ同指針に基づいた行動を奨励せず、人権侵害の防止と軽減に失敗した等として、行動指針違反にあたると申し立てていた。

 STPの訴えに対し、同行のチーフ・リスク・オフィサーを務めるJoachim Oechslin 氏は、DAPLのプロジェクトファイナンスには資金を一切投じていないとして責任を否定した。一方、DAPLの建設に関与した企業と長年にわたり関係があることは認めた。DAPLは2016~17年にかけて建設された総長1,172マイル(1,886km)の地下埋設型石油パイプラインで、建設中には自然保護団体、先住民族、人権保護団体から激しい反対を受けていた。

DAPL建設の資金源にも注目が集まり、多くの銀行が最終的に融資を打ち切る結果となった。スイスNCPは、クレディ・スイスとSTPの調停役として、計5回のミーティングを開催した。

 その結果、クレディ・スイスは石油・ガス、鉱工業および農林セクター向けプロジェクトファイナンスの社内ガイダンスに、先住民族との「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を盛り込むことに同意した。また、「NCPによる建設的な調停で達した結論に従い、個別セクターに関する社内方針を改訂し、人権、とりわけ先住民族の権利保護について、具体的な要素を盛り込む」との声明も発表した。

 声明ではさらに、「我々は、全てのステークホルダーに対する責任を真摯に果たし、現在進行中の生産的な対話を高く評価する」と述べている。

 STPはこうした動き歓迎する一方、同行は先住民族に関する方針を他の分野にも適用する必要があると主張している。STPのキャンペーン・コーディネーターであるアンジェラ・マットリ(Angela Mattli)氏は、「クレディ・スイスはプロジェクトファイナンスに限定してFPICの遵守を約束している」と指摘し、「企業への融資や証券委託売買業務には、このガイドラインは適用されていない。よって先住民族の権利の包括的な保護に向けて小さく一歩を踏み出したにすぎない」と述べた。

 先住民族主導のNGOで、悪質な採掘会社および事業向け融資の打ち切りを金融セクターへ要請しているDivest, Invest, Protectの創設者であり、先住民族の人権問題に取り組む弁護士のミシェル・クック(Michel Cook)氏によると、DAPLの建設は完了しているが、先住民コミュニティの戦いは今もなお続いているという。

 「事業者側はDAPLの原油輸送容量を日量50万バレルから100万バレルに倍増する提案をしている。それにより、既存施設の汚染と損傷が進むリスクが拡大しかねない」とクック氏は指摘する。

 先住民のスタンディングロック・スー族は、環境保護系の法律事務所EarthJusticeを代理人に立てて、DAPLに関する訴訟を続けている。

 クック氏はNCPによる最近の調停において、クレディ・スイスがDAPL建設に融資しなかったとはいえ、新たな社内指針が人権侵害の回避に役立つとはいえない、と発言した。

 「銀行は軒並みプロジェクトファイナンスから撤退しているが、企業向け融資にも同様の方針を適用すべきだ。銀行にとっては、企業向け融資の方が人権侵害の批判を逃れやすいからだ。」と同氏は指摘する。

 DAPLの所有権を持つEnergy Transfer Partnersが出資した378億ドルのうち、25億ドルは銀行からの融資によるものである。融資した銀行は17行で、そのうち13行(シティバンク、ウェルズ・ファーゴ、BNPパリバ、サントラスト、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、ABNアムロキャピタル、INGバンク、ICBC、ソシエテ・ジェネラルなど)はエクエーター原則に署名している。INGやパリバなどは批判を受け、DAPL建設事業への融資を引き揚げた。


 

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【参照】
Responsible Investor,    Vibeka Mair「Credit Suisse includes protection of indigenous rights in project finance guidelines」2019年10月24日(2019年11月21日情報取得)

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QUICK ESG研究所 「【RI特約記事】ANZグループが人権問題でOECD 多国籍企業ガイドライン違反に」2018年11月6日 https://www.esg.quick.co.jp/research/938
QUICK ESG研究所 「【RI特約記事】オランダNCPによるING銀行への調査:気候変動をめぐる初めての事例」2017年12月18日 https://www.esg.quick.co.jp/research/832


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