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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 英国財務報告評議会(FRC)は10月24日、英国スチュワードシップ・コードの改訂版にあたる「The UK Stewardship Code 2020」を発表した。投資家に対しESG要素の考慮を「ニューノーマル」として義務づけるもので、現行の2012年版とは一線を画している。

 スチュワードシップ・コードは、投資家のアクティブ・オーナーシップの実践を重視する「純粋なガバナンスコード」として生まれたが、今回の改訂版では、環境、社会にも対象を広げている。

 改訂版は、スチュワードシップを、社会を含むあらゆるステークホルダーに「長期的価値をもたらすべく、責任ある資本の配分、管理、監督」することと再定義した。いまやESGコードともいえる内容となった。

  • 原則7は、署名機関が自らの投資を評価する上でESG要素をいかに優先的に考慮するか報告するよう促す。入札およびマンデート(運用委託形態)においてもESG要素を統合することが求められる。(原則7: Signatories systematically integrate stewardship and investment, including material environmental, social and governance issues, and climate change, to fulfil their responsibilities.)
  • 原則4では、気候変動を署名機関が考慮すべきシステミックリスクと認識するだけでなく、適正に機能する市場を推進するために、いかに他のステークホルダーと協働しているか説明すべきであるとしている。(原則4: Signatories identify and respond to market-wide and systemic risks to promote a well-functioning financial system.) これは、株主第一主義の衰退や、米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルによる「企業の真の目的に関する声明」の発表と一貫した動きだ。企業や政府が掲げるステークホルダー中心主義は、スチュワードシップ・コードの署名機関にも該当する。ステークホルダーに対する取締役の義務を定めた英国会社法第172条と最新版の英国ガバナンス・コードによる当然の帰結ともいえる。

 その他の革新的な要素としては、スチュワードシップの実践に必要なリソース(人員体制、専門性、調査・分析への投資)に関する報告、更にはその実践を後押しするインセンティブ(成果管理と報酬体系)についての報告も推奨されている(原則2:Signatories’ governance, resources and incentives support stewardship.)。これを機に、報酬システムが抱える問題点について議論の道が開かれるかもしれない。アセットマネジャーの報酬は投資先企業の株価のみに基づいて決まるべきか、その場合、その他のステークホルダーの利益を犠牲にしてまで、株価上昇を追求する圧力が経営陣にはたらくのではないか、という問題だ。

  • 原則9と10は、エンゲージメントおよび集団的エンゲージメントの結果を投資判断に反映する際の方法として「(資産の)購入・売却・保有」を挙げ、ダイベストメントもスチュワードシップを行使するためのツールの1つであると改めて示した。(原則9: Signatories engage with issuers to maintain or enhance the value of assets、原則10: Signatories, where necessary, participate in collaborative engagement to influence issuers.)

 株の貸借取引についての言及は、エンプティ・ボ―ティング(empty voting)の防止にとどまるが、原則12は議決権行使をめぐる情報開示の強化を求めている。具体的には、署名機関に議決権行使記録へのアクセスを認め、少なくとも重要な決定事項(株主提案に対する反対票を含む)に関してはその根拠を説明するよう求めている。

  • 原則12は、年金における従業員・受益者代表の信託受託者(Trustee)を支援するAssociation of Member Nominated Trustees(AMNT)が公表した、年金向けのESG配慮型議決権行使ガイダンス「Red Line Voting」の目標に即した内容である。分離口座やプール口座で管理する銘柄について、株主である顧客による議決権の行使を認めている場合、その方針を公表するよう求めている。(原則12: Signatories actively exercise their rights and responsibilities.)

 改訂版コードがESG要素を網羅したことは、決して予想外ではない。FRCは2017年に改訂案を提示し、ステークホルダーから意見募集を行っていた。

 受託者責任とESG投資がニューノーマルとなる流れが止まらないなか、FRCとしてもこうした一連の展開を無視する訳にはいかず、市場の潮流を巧く捉えた結果といえよう。あと1つ足りないピースを挙げるとすれば、持続可能な開発目標(SDGs)に明確に言及しなかったことだろう。

 最初のスチュワードシップ・コード制定のきっかけが、金融危機とその後の「ウォーカー報告書」(2009年発表、株主は配当金の支払いに関心を示すだけで、本来果たすべき注意義務を怠っていると指摘)だとすると、改訂版の制定を促したのは、気候危機ではないだろうか。

 改訂版コードは"comply or explain"原則(遵守せよ、さもなければ説明せよ)ではなく、"apply and explain"原則(適用し、かつ説明せよ)を採用している。しかし、その任意性を考慮すると、十分な実効性があるかは疑問が残る。署名機関による取組みをコードと照らし合わせ監視する仕組みがなければ、背反行為に誰も気づかないのではないか。そうなれば、FRCはこれまでの失敗を再び繰り返しているとの批判に晒されかねない。

 FRCの組織改編を求める「キングマン・レビュー」は、規制当局としてのFRCの弱点は、業務の手を広げ過ぎて対応が追いついていないことにあるとし、「スチュワードシップ・コードは重要かつ善意の介入手段ではあるが、実際には有効に機能していない」と指摘している。英ビジネス・エネルギー・産業戦略省のアンドレア・レッドソム (Andrea Leadsom)大臣は既に機関投資家に改訂版コードへの署名を促している。だが、キングマン・レビューの提言を今一度思い出そう。「政府は、コードの遵守状況の適正な評価と遵守の推進をするべく、監督機関の権限をさらに拡大すべきかどうかも検討すべきだ。コードが画一的な報告を奨励するだけのものであり続けるなら、廃止を真剣に検討すべきだ」と勧告していることも注目に値する。

 FRCの新組織となる「監査・財務報告・企業統治監督機構(ARGA)」の発足が保留されているため、誰にそうした権限を委ねるのかは不透明である。

 英国政府には機関投資家議決権行使の情報開示を義務づける法案が整備されていることはあまり知られていない。それが、従来の会社法の中でもほとんど注目されない条項に規定されているからだ。具体的には、2006年会社法の第1277条に規定されている。いまだ施行には至っていないため、アセットマネジャーは議決権行使情報の開示という面倒な手続きをせずに済んでいる。

 改訂版「ESG」スチュワードシップ・コードの成否を占うボールは、今は英国政府の手にある。


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【参照】
Responsible Investor,   Carlos Tornero「Analysis: UK Stewardship Code becomes a de facto ESG Code—but it needs teeth」2019年10月24日(2019年11月19日情報取得)
Financial Reporting Council (FRC), The UK Stewardship code 2020 
https://www.frc.org.uk/getattachment/5aae591d-d9d3-4cf4-814a-d14e156a1d87/Stewardship-Code_Final2.pdf

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QUICK ESG研究所「【RI特約記事】英国のコーポレート・ガバナンス改革案 ~説明責任と信頼性の向上へ向けて~」2017年11月2日 https://www.esg.quick.co.jp/index.php/news/794


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