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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 国際会計基準審議会(IASB)のハンス・フーガーホースト議長は、将来の企業報告のために、サステナビリティ報告基準設定機関の統合を検討すべきと提言した。議長は今年5月のCorporate Reporting Dialogue(CRD)の会合でも、こうした考えを述べていた。CRDは、財務および非財務情報開示基準の主要な設定機関から成るグループである(参加メンバーは末尾を参照)。CRDの会合はチャタムハウスルールの下で開催されたが、議長は最近のデロイトUKとのビデオインタビューでも会合での自らの発言を繰り返し、「既存の基準設定機関や基準の一部を統合すべきである。そうすれば、企業の情報開示担当者の混乱をある程度和らげるだろう。あまりにも多くの基準が乱立し、過度の情報開示が行われている可能性が高いからだ。同様の問題は、既に国際財務報告基準(IFRS)でも起きている」と述べている。

 IASBはサステナビリティ基準の策定を行わないことを明らかにし、その主な理由として策定に必要な体制が整っていないことと、目下の課題に集中する必要があることを挙げた。IASBの最終的な目標は、「マネジメント・コメンタリー(企業の財務諸表への理解を深めるため経営者が追加的に行う説明)」に関するガイダンスの改訂にある。専門用語では「マネジメント・コメンタリーに関する実務記述書」と呼ばれるこのガイダンスを、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿って改定する意向だ。その公開草案の公表とその後のヒアリングの実施時期は2020年後半になる見通しだ。

 気候変動開示基準委員会(CDSB:Climate Disclosure Standards Board)のマネジングディレクターを務めるマーディ・マクブライアン(Mardi McBrien)氏はRIの取材に対し、「それではあまりにも遅すぎる。多くの財務・非財務の情報開示基準設定機関は、ESG関連情報に対するニーズの高まりに対応できる体制を整えていなければならない。特にCDSBは、IASBが気候関連情報開示について対処しなかった時のために存在している」とコメントした。更に、CDSBが策定したフレームワークはIASBがめざす内容と一致しており、「是非使ってもらいたい」と述べた。

 CRDの議長でIASBの元副議長でもあるイアン・マッキントッシュ(Ian Mackintosh)氏は、5月のステークホルダーミーティングでは「何らかの対応が必要であるという意識は広く共有されている。皆が求めているのは単一のフレームワークと単一の指標で、それにより比較可能性と、何をすべきかが明確になる。既存のフレームワークおよび手法の統合は選択肢の1つではあるが、唯一の方法とは限らない」と指摘する。もう1つの方法として、既存のフレームワークを維持し、互いの整合性を説明する方法を挙げた。これは、2018年11月に発足した「Better Alignment Project」が掲げている目標である。プロジェクトの第1段階として、米国サステナビリティ会計審議会(SASB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)およびCDSBがそれぞれの既存のフレームワークとTCFD提言とのマッピング作業を行っている。その結果をまとめた最初の報告書は9月23日にニューヨークで開かれる「Climate Week」で発表される。CDPのグローバル・テクニカル・ディレクターを務めるトニー・ルーク(Tony Rooke)氏は統合の可能性について問われ、「それは、基準設定機関と報告フレームワークとの二者間で検討すべきものだろう」と答えている。

 GRIのティム・モーヒン(Tim Mohin)CEOはRIの取材に対し、「全てを1つに統合することは必ずしも合理的ではない。各々がバリューチェーンの異なる部分で機能しているからだ」と述べ、報告フレームワークが乱立しているという主張は「誤解を招く」と指摘した。さらに「現実は、国際的かつ独自の開示基準を設定している機関がほとんどないのが状況だ。ESGランキング、分析・商用サービスを提供する企業と基準設定機関を混同すべきではない」とも話している。

本記事の執筆時点で、SASBからコメントは得られていない。

 IASBの創設者で元CEOのジーン・ロジャーズ(Jean Rogers)氏は、「マッシュアップ(異種の混ぜ合わせによるサービス)」は「非現実的なファンタジー」であり、「プロダクト・マーケット・フィット」の観点からみて機能しないとの見方を示し、「IASBは米財務会計基準審議会(FASB)と統合をめぐり10年以上も協議した結果、事実上何の成果も示せなかった経験があるだけに、プロダクト・マーケット・フィットの重要性を誰よりも認識しているはずである」と指摘する。さらにロジャーズ氏いわく、「皮肉にも」、サステナビリティ基準設定に向けたグローバルモデルはIASBのモデルなのである。ロジャース氏はその理由として、国際会計基準(IFRS)のように1つの形式ではなく、166の国・地域の市場に合わせて標準的な基準が調整、適応、解釈されているからだと説明する。それでもIASBは、それらがIFRS原則の意図と精神に合致していると認めている。

 さらに同氏は、「166の国・地域を監督するグローバル機関を設置し、既存のサステナビリティ基準設定機関のこれまでの取り組みを引き受けさせるという選択肢はあり得る。それでも米国は、証券取引法の方がより厳格であることを表向きの理由に、独自の基準設定機関を持つことを望むだろう」と話す。「IASBがこの課題に対処するか否かにかかわらず、既存の基準設定機関が使命を果たしていないかのように批判すべきではない」とも述べた。

 5月の会合に参加した欧州のステークホルダーは、「IFRSの失敗」(2002年にEU圏内でIASBが設定した会計基準が採用されたことに言及)を避けるため、欧州主導の基準設定手法をとるよう強く求めたとされている。欧州のステークホルダーは、ロンドンを拠点とする民間団体(つまり、IASBの運営組織であるIFRS Foundation)が他の地域の会計基準を設定すべきではないと主張した。

 こうした考えの背景には、フランスの会計基準設定機関である国家会計基準局( Autorité des Normes Comptables)のパトリック・デ・カンブール(Patrick de Cambourg)長官が先に発表した有名な研究論文がある。フランス経済・財務省の委託を受けて執筆されたこの論文は、非財務情報およびサステナビリティ関連情報開示について、よりEU主導のアプローチをとるよう提案している。

Corporate Reporting Dialogueの参加メンバーとオブザーバー:
CDP: 旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト
CDSB: 気候変動開示基準委員会
FASB: 米財務会計基準審議会(オブザーバーとして参加)
GRI: グローバル・レポーティング・イニシアチブ
IASB: 国際会計基準審議会
IIRC: 国際統合報告評議会
ISO: 国際標準化機構
SASB: 米国サステナビリティ会計審議会


 

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【参照】
Responsible Investor, Carlos Tornero 「Sustainability reporting bodies react as accounting chief Hoogervorst stirs the ESG ‘alphabet soup’」2019年8月14日(2019年9月12日情報取得)


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