画像

本稿は、QUICK ESG研究所のパートナーである米グラスルイス(以下、GL)社が、同社のブログで公表した内容をQUICK ESG研究所が翻訳したものです。

フランスが「上場会社コーポレートガバナンス・コード」を改訂

 フランス私企業協会(AFEP)とフランス企業連盟(MEDEF)が6月21日に発表した最新版の上場会社コーポレートガバナンス・コードは、実質的にフランス国内に本社を持つ全ての大企業および中規模企業の指針となる。今回の改訂内容はフランス市場の現状を浮き彫りにするもので、エンゲージメントやESG課題に対する投資家の関心の高さを反映するとともに、企業が現代社会でしかるべき役割を果たすことを求める政治的圧力が強まっていることがうかがえる(主な改訂事項を本稿の最後に記載)。

協議は公開したが改訂案策定プロセスは非公開

 AFEP-MEDEFコードは、今回を含め過去5年間に4回改訂されている。今回の改訂ポイントの多くは、ガバナンスおよび役員報酬体系への環境・社会要因の組み入れと株主による取締役会への関与に関するもので、いずれもここにきて株主の関心を集めているテーマである。

 だが、その改訂手続きは誰もが納得するものではなかった。2018年2月終わりに改訂案について6週間にわたる公開協議が行われたが、多くの投資家は改訂案策定プロセスに加われなかったことにやや憤慨しており、機会損失に当たると指摘する声もあった。責任投資原則(PRI)も非財務情報に焦点が当てられたことは高く評価したものの、改訂案策定プロセスから投資家を締め出した決定を批判した。

 この問題は、2月に提言された改訂案の文言と6月に発表された最終案の文言がほぼ同じであったことで一層際立ったといえよう。皮肉にも、最も大幅な文言の改訂が行われたのは公開協議終了からかなり時間が経った時点だった。これと時を同じくして、小売大手カルフール(Carrefour)のジョルジュ・プラサ前CEOの高額報酬をめぐる騒動を受け、AFEPとMEDEFは競業避止義務の文言を慌てて厳格化していた。

ソフトローでは不十分

 今回のコード改訂で環境・社会の課題に焦点を当てた背景には、「PACTE法(※2018年6月18日にフランス内閣で発表された、企業の成長と変容のための行動計画)」に即して検討されている、より強制力のある法改正を牽制する目的があるとする見方が広がっている。とりわけ同法は、企業が単なる利益追求ではなく、環境・社会面で一層幅広い役割を担うことを考慮すべきと提案している。AFEP-MEDEFコードの提唱者たちは、「ソフトロー」である同コードに強い文言を盛り込んだことが、規制の厳格化を回避するための妥協策になることを望んでいるのだろう。 

 だが、それで十分なのかという疑問の声が上がっている。今回の改訂が前向きであることに異議を唱える向きは少ないだろうが、その内容はフランス国内で既に定着している市場慣行をなぞっただけで、企業行動を大幅に変えるものであるとは決して言えないだろう。多くのフランス企業の役員報酬は、既にCSR(企業の社会的責任)に基づく方法で算定されている。ちなみに2018年の株主議決権行使期間中にはフランスの大手優良企業の約80%がこうした方法を採用していたほか、本社がフランスにあるCAC40企業35社のうち25社は、環境・社会課題への取り組みを監視する取締役会レベルの委員会を設置している。

 取締役会の従業員代表制についても同様である。従業員の代表を取締役会のメンバーに含めるべきとの提案は、戦略的な意思決定の場に従業員の代表が参加し、影響力を及ぼすことへの期待に基づくものである。だが、これも既に慣行として広く定着しており、フランスの大企業はいずれも従業員代表の取締役を任命している。従って今回のコード改訂によって、従業員代表複数選任制の適用基準変更(※当局は、適用基準を取締役会の構成人数「12名」から「8名」に引き下げる方向で法改正検討中)を思いとどまらせることは難しいだろう。その他のさらに踏み込んだ対応も、あまり意味がなかったといえよう。

 ジェンダーの多様性については、AFEPとMEDEFは内省する姿勢を見せている。いずれもコーポレート・ガバナンスの旗振り役でありながら、自らが推奨する上場会社コーポレートガバナンス・コードの準拠状況を監視する高等委員会のメンバー7名のうち、わずか1名しか女性を任命していないことを批判されてきた。今後は委員会のメンバーを9名に増やし、メンバーの選定条件を「企業の役員以上」としていた既存の規定を撤廃することで、男女比バランスの改善を図る。これは、フランス企業に広く共通する問題である。上場企業の取締役会には既にジェンダー・クオータ制(gender quotas)が適用され、それぞれのジェンダーが取締役会構成メンバーの40%を超えるよう義務づけられている。一方でフランスでは、取締役会における女性メンバーの割合が経営幹部に占める女性の割合ほど上昇していないことが以前から課題となっている。

 そこで今回のコード改訂では、投資および規制をめぐる新たな潮流に乗る形で、企業に株主のみならず社会全体に対する責任意識を喚起しようとしている。その支持者は、改訂後のコードは世界で最も厳格なコーポレートガバナンス・コードの1つであると主張しているが、改革者を標榜するマクロン大統領とブリュノ・ル・メール経済大臣がこの改訂で十分と判断するかどうかは不透明である。

 

※フランス 上場会社コーポレートガバナンス・コード 主な改訂事項

取締役会

  • 取締役会は環境・社会の課題と自社の事業活動を関連づけることで、長期的な価値創出の促進を目指すべきである。
    (GL注:環境および社会に対する企業の責任は、取締役会に常に報告されるべき事項であることが明示されている)
  • 「筆頭取締役」に任命されるのは社外取締役に限る。
    (GL注:特にCEOが取締役会議長を兼任する場合は、この役職が意味を持つとしている)
  • 従業員代表の取締役は、上場会社コーポレートガバナンス・コードが適用される企業の従業員から選ばれるべきである。
  • 取締役会への関与を求める株主に対する責任はコーポレート・ガバナンスの重要なテーマであり、取締役会の議長または社外の筆頭取締役がその責任を負うべきである。

報酬

  • 社会および環境に対する企業の責任を役員報酬の算定基準に組み入れるべきである。
  • 定年退職するか、年齢が65歳以上の役員は、競業避止義務に基づく報酬の支払いを受けるべきではない。
    さらに、こうした規定がない場合には、役員の退職時に競業避止義務を締結すべきではない。
    上記契約を結んでいる場合、報酬の支払いは契約期間中に段階的に行うべきである。 
  • 改訂後のコードの公表後に策定された補足年金制度は、業績条件を設けなければならない。

その他

  • 企業の経営幹部は多様性の確保および差別禁止の方針を策定すべきである。
    (GL注:それが企業の首脳部内の男女比バランスの問題解決にもつながるはずであるとしている)
  • 企業は腐敗や利益誘導を売り物にする行為を察知・回避する仕組みを構築すべきである。


コーポレート・ガバナンスの高等委員会は「コンプライ・オア・エクスプレイン」原則の確実な採用を目指し、同委員会の提案に対して2か月以内に反応を示さなかった企業名を公表する構えである。
 

By Emmet McNamee
 

【参考】
GlassLewis Blog「In France, A New Code for New Times」2018年6月28日(2018年8月7日情報取得)


真中克明, アナリスト QUICK ESG研究所