CO2のイメージ

 

 トランプ氏の大統領就任が確実になった2016年11月以降、温暖化やクリーンパワーを専門とする科学者や大学が、米国政府がこれまで蓄積してきた地球温暖化に関するデータが削除される前にダウンロードしようと必死になっているというニュースが流れた[1]。大統領就任までの準備期間中には、地球温暖化に懐疑的な閣僚の指名が相次いだ。また、米エネルギー省(DOE)では内部で、地球温暖化防止のための国際協力に参加あるいはカーボン排出量削減のために尽力してきた従業員やコントラクターのリスト作成が進められてきた。

 大統領就任間もない今年3月28日には、トランプ大統領がエネルギーの独立性に関する大統領令に署名をし、オバマ政権が2015年10月に発表したクリーンパワープランの見直しを米環境保護局(EPA)に命じた[2]。

 クリーンパワープランは州ごとにカーボン排出量削減ゴールを定める。同プランが想定通り実行されると、既存の火力発電所から排出されるCO2は2030年までに2005年比で32%削減される。米国は、「パリ協定」で温室効果ガスの排出量を2025年までに2005年比26~28%削減すると約束しており、同プランは、約束達成の一環という位置づけにある。クリーンパワープランは公表後議会の支持を得られず、また、2016年2月には最高裁判所が同プランの施行を一時的に差し止める判断を示しており施行に至っていない。環境保護局長官のスコット・プルーイット氏は10月10日、同プランを廃止する規則を発表した。プルーイット氏は、オクラホマ州司法長官時代にクリーンパワープランを含む環境諸政策に対し、連邦環境保護局を相手取り14回も訴訟を起こすなど規制反対派として知られる[3]。この規則が成立するまでには、国民への公表とコメント誘致期間を経て、上院・下院双方によるレビューを必要とする。上院・下院が、規則の不支持を採択すれば、規則は無効になるが、1996年にこの仕組みが導入されて以来、上院・下院による規則の不支持は一度しかない[4]。いずれにしても、あと一年は舞台裏のロビー活動や交渉が続くことになる。トランプ大統領は「パリ協定」から離脱を表明しているが[5]、脱退手続きには数年を要する。離脱は、早くて次期大統領選が実施される2020年11月であり、仮にトランプ大統領の任期が一期で終わった場合、米国が実際に脱退を果たすかは不明である。

 専門家の声よりもロビー活動を繰り広げる財界の声を優先するプルーイット環境保護局長官のリーダーシップに反対して辞任する職員も相次いでいる[6]。一方、一般市民のおよそ半数は地球温暖化は人間の仕業であると信じており、残り半数は地球温暖化の存在を否定するか自然現象でしかないと信じているという[7]。しかし米国人の3分の2は、政策決定にあたり気候を専門とする科学者に大きな役割を与えるべきであると考えているのは心強い。


[1] The Washington Post「Scientists are frantically copying U.S. climate data, fearing it might vanish under Trump」2016年12月13日(2017年11月13日情報取得)
[2] The White House「Presidential Executive Order on Promoting Energy Independence and Economic Growth」2017年3月28日(2017年11月13日情報取得)
[3] United States Environmental Protection Agency「EPA Takes Another Step To Advance President Trump's America First Strategy, Proposes Repeal Of "Clean Power Plan" 」2017年10月10日(2017年11月13日情報取得)
[4] Federal Register「A Guide to the Rulemaking Process 」(2017年11月13日情報取得)
[5] The White House「President Trump Announces U.S. Withdrawal From the Paris Climate Accord」2017年6月1日(2017年11月13日情報取得)
[6] FRONTLINE「To Sway Scott Pruitt, EPA Experts Must “Hope Against Hope,” Says Former Insider」2017年10月11日(2017年11月13日情報取得)
[7] Pew Research Center「1. Public views on climate change and climate scientists」2016年10月4日(2017年11月13日情報取得)


Mari Kawawa QUICK ESG研究所