企業がESGを重視する経営を推進する中、その企業年金は責任投資にどう取り組んでいるのか。企業年金は運用会社に投資業務を委託しても、アセットオーナーとしての責任を担うことが期待されている。資産規模の大きい企業年金の公開情報からポイントを探った。

 「責任ある機関投資家」の諸原則である「日本版スチュワードシップ・コード」では、運用会社による投資先企業への議決権行使エンゲージメント(対話)などの実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、アセットオーナーが促すことが期待されている。投資先企業の価値向上や持続的成長を促し、中長期的な運用成果につなげるのが狙いだ。

 一方、上場企業は「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治指針。以下、「CGコード」と表記)の原則2-6で、企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるように取り組むことが求められている。両コードの後押しで、企業年金による責任投資が進んでいるとみられる。

 責任投資の実態に迫るため、格付投資情報センター(R&I)発行の2022年1月3日付「年金情報」に掲載された「2021年日経企業年金実態調査」の総資産順一覧から確定給付企業年金(DB)について調べた。母体企業が日本で上場し、「コーポレートガバナンスに関する報告書」(以下、「CG報告書」)の原則2-6で当該企業年金について記載している上位10企業年金を抜粋した。

 勤続年数や給与水準に応じて給付額が決まるDBは、企業が「企業年金基金」という別法人を設立する「基金型」と、労使合意の年金規約を作成して実施する「規約型」がある。この10企業年金の中では野村総合研究所(4307)と三井化学(4183)が規約型で、他の8企業年金は基金型だ。

 金融庁の公開リストから探すと、スチュワードシップ・コードを受け入れているのは、三井住友フィナンシャルグループ(8316)が母体の三井住友銀行企業年金基金、大塚ホールディングス(4578)の大塚製薬企業年金、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)の三井住友海上企業年金基金、野村総合研究所の規約型企業年金の4企業年金だ。

 責任投資の進捗状況を探るポイントを絞った。具体的には、①運用会社の監視:委託する運用会社に適切なモニタリングを実施しているか、②専門人材の配置:運用の知識を持つ専門的な人材を登用しているか、③運用委員会の設置:運用に関する諮問機関として委員会を設置しているか、④助言会社の活用:外部のコンサルティング会社など第三者によるアドバイスを活用しているか、⑤利益相反の管理:利益相反の管理を適切に行っているか――の5点とした。

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 企業年金や母体企業のホームページ、CG報告書の原則2-6の記述によると、「①運用会社の監視」は10企業年金の過半で記述があった。「②専門人材の配置」と「③運用委員会の設置」はほぼすべて、「④助言会社の活用」は半数、「⑤利益相反の管理」も大半の企業年金で確認できた。

 なお、企業年金のホームページでは情報を加入者・受給者向けに限定して公開したり、公開資料の記述を簡略にしたりしているところもある。このため、実行したり、設置したりしていても非公開のため空欄になっているところがある可能性も否定できない。

 個々の項目についてみていくと、「①運用会社の監視」については、委託する運用会社に対して求める事項や原則を明確に示すことや、運用会社のスチュワードシップ活動を評価することも大切だ。また、委託する運用会社の選定にあたり、スチュワードシップ・コードの受け入れ先に絞っているかなどもポイントになる。

 「②専門人材の配置」は企業年金の運用にかかわる専任者の人数、「③運用委員会の設置」も構成メンバーの専門性など、細かい分析が必要かもしれない。投資先の選定や議決権行使を運用会社に委託しても、運用会社からの報告を評価するには相応の能力が不可欠だからだ。「④助言会社の活用」は利益相反の管理につながる面もある。

 「⑤利益相反の管理」とは、年金加入者や受給者の利益よりも母体企業の取引関係を優先することを指す。CG報告書によると、武田薬品企業年金基金や三井化学の規約型企業年金は、委託する運用会社の判断基準に委ね、投資先選定や議決権行使に関与しないことによって、利益相反を管理しているという。

 企業年金の責任投資の体制を整えることは、投資先企業の中長期的な価値向上に寄与し、安定的な給付につながるとみられている。母体企業の財務上もメリットも見込まれるだけに、アセットオーナーとしての機能を発揮できるように適切なサポートが望まれる。

【参考】6月5日付日経ヴェリタスでは、QUICKリサーチ本部ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資 最前線」で、企業年金の責任投資が取り上げられました。本稿はその関連記事です。


QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義