企業価値向上の観点からサステナビリティ(持続可能性)の課題に取り組む企業が増えている。その本気度を推し量る基準の1つとして、役員報酬にESG(環境・社会・企業統治)要因を考慮した指標を連動させる「インセンティブ報酬」がある。報酬に占めるESG考課の割合を開示する国内企業の事例を集めた。

 ESGを考慮した経営で知られるフランス食品大手ダノン。同社の発表資料によると、最高経営責任者(CEO)の年次変動報酬のうち20%を社会・環境課題に関する指標の達成度によって評価している。

 日本企業はどうか。日経電子版のニュースや、金融庁が公表した「記述情報の開示の好事例集」を手掛かりに、名前の挙がった会社12社について各社が直近に提出した有価証券報告書の「役員の報酬等」の記載内容を調べた。

 なお、有価証券報告書の提出会社すべてを調べたわけではなく、実際に報酬がどう支払われたかは確認していない。ESG連動報酬の割合を明示した会社が提出会社全体のどの程度を占めるのかも不明だが、12社の内容を一覧表にまとめることで、あらましの理解に役立つだろう。

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 表で12社の内容を見ると、中長期のインセンティブだけでなく、年次の賞与といった短期的なインセンティブに「サステナビリティ指標」を連動させている会社があることに気づく。KPI(重要業績評価指標)については女性管理職比率や温室効果ガス削減、ESG評価機関による評価が目立つ。

 業績連動報酬のKPIは売上高や利益、利益率など財務関連指標が主流だ。固定給も含め役員が手にする報酬全体からみれば、ESG関連の割合は小さい。しかし、こうしたインセンティブはESG課題の解決に前向きなメッセージと外部から受け止められているのではないか。

 日本の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)は2021年6月の改訂で、取締役会による中長期的な企業価値向上の観点からサステナビリティに関する基本方針の策定や監督に言及した。経営陣の報酬は改訂前から「中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべき」としており、サステナビリティに関するインセンティブも加わった格好だ。

 指針が後押しする形で上場会社の間でサステナビリティに関する委員会の設置が相次いでいる。こうした流れに沿ってサステナビリティ指標をKPIとする報酬制度を導入する会社が増えていく可能性がある。

 一方、投資家の間では配当の増額など還元策を期待する向きも多いだろう。株主をはじめとするステークホルダー(利害関係者)からESG連動のインセンティブ報酬に対する理解を得るには、それが会社の目的や事業戦略と整合的で、企業価値の向上につながるとの説明が欠かせない。導入後の成果の検証も含め、丁寧な情報開示が大切だ。


QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義

【参考】日経ヴェリタスで、QUICKリサーチ本部ESG研究所が実施した調査を基にサステナブル投資の最新動向を分析・報告する「サステナブル投資 最前線」の連載が始まりました。初回の4月17日号では、国際規範や日米英のコーポレートガバナンス・コードなど内外の指針から役員報酬に言及した箇所を抜き出して整理した「役員報酬とサステナビリティ要素に関する最新動向」を取り上げています。本稿はその関連記事です。