人権の父、ジョン・ラギーが亡くなった。訃報が届いたのは、9月17日の金曜日、ESGワークショップ「人権デューデリジェンスの内外での実践」を終えた直後であった。ラギー先生に私たちの思いは届いただろうか。

 「ラギーフレームワーク」とも言われる、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」は、2011年6月に国連人権理事会で全会一致により承認され、今年で10周年を迎えた。指導原則は、国家の責務に加え、企業にも取引先を含めた従業員の人権を尊重する責任があることを明記、救済措置も含めた人権デューデリジェンスの実施を義務付けたことに大きな意義がある。

 その後、世界各国で「原則」に基づく国別行動計画(NAP)が策定され、昨年10月には日本でも完成、また、本年6月の改訂コーポレートガバナンス・コードでも、人権尊重を含むサステナビリティ課題は、事業リスクの減少のみならず、収益強化にもつながる重要な経営課題として、取締役会が取り組むべきものとして明記された。

 欧州では先駆けて、人権デューデリジェンスの法制化、義務化が進んでいるが、企業の実態はどうだろうか。昨年5月のESGワークショップで、先生は、米国のご自宅からリモートで講演し、「実践はこれから、指導原則を支持し、方針を作っても、人権デューデリジェンスを行わないのは嘘つきのすることだ」と、熱く日本企業に語りかけた。実際、世界は、新疆ウイグル自治区や東南アジアなどでの企業による人権侵害の例が後を絶たず、方針と実態に乖離があるのが現実であろう。先生は、指導的立場において、あらゆるところで人権デューデリジェンスの実践を呼び掛けていた。

 先生がQUICKを訪れたのは、2018年9月であった。取締役を務めるアラベスク社のアレンジで来社され、これからのESG情報の開示と評価はどうあるべきかについて、自論を展開しながら熱心に語られたのを思い出す。また、気さくで飾らない人柄で、笑顔がひと際チャーミング、誰にでも分け隔てなく接しられたことが印象的であった。しかしひとたび人権の話になると、鋭い眼光で遠くを見据えていた。

 特別な月もう少しで手が届く 廣瀬悦哉

 煌々と光る仲秋の名月を見上げなら、ラギー先生を思い浮かべた。 

 親愛と敬意を込めて心より哀悼の意を表したい。

John Ruggie

 


QUICK 常務執行役員 ESG研究所主幹 広瀬 悦哉