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 英国の責任投資メディアResponsible Investorは10月28~29日、オンラインイベント「RI Digital: Japan 2020」を開催した。同イベントでは、ESG投資の現状やスチュワードシップ責任、多様性や脱炭素化、グリーンファイナンスなど様々な課題を通じて、経済再興の道筋とニューノーマルの形成に向けた議論が交わされた。

PRIのフィオナCEO「日本のサステナビリティ行動の加速を期待」

 初日の基調講演では、責任投資原則(PRI)の最高経営責任者(CEO)であるフィオナ・レイノルズ氏が録画インタビューに出演し、日本の責任投資の現状や今後、期待することなどについて語った。

 レイノルズ氏は「日本はサステナブル投資で欧州と米国に次いで3番目に大きな市場になっている」と指摘。世界最大規模の運用資産を誇る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名したことが非常に大きな出来事だったとしたうえで、「ビッグプレーヤーの行動が他の地域にも影響を及ぼす。その影響力をもっと使うべきだ」と述べ、GPIFのリーダーシップの継続に期待感を示した。

 同インタビューは、菅義偉首相が10月26日に「2050年に温室効果ガス排出ゼロ」を宣言した所信表明演説の前に収録されたが、レイノルズ氏は日本政府のこれまでの対応を評価したうえで「菅首相がサステナビリティのための行動をさらに加速していくことを願っている」と述べた。

ESG投資拡大を通じた持続的な“ニューノーマル”経済のつくり方とは

 その後に行われたパネルディスカッションでは、「ESG投資の拡大を通じた持続可能な”ニューノーマル”経済のつくり方」について議論が交わされた。

 公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構の福山圭一上席研究員は「ニューノーマル経済の具体的な”姿”は不明確だが、新型コロナウイルスによって働き方が見直されたのは大きな転機。日本では人口減少が課題となるが、生産年齢人口の増加と生産性の向上が重要となる中で日本が課題先進国として好事例になるべきだ」と述べた。

 日本生命保険の中島俊浩取締役常務執行役員は、企業との対話やESG投資に関わる活動実績を紹介したうえで「ESG投資の潮流は中長期的に継続するもので、リスクリターンの改善のためにはすべての資産においてESGを組み入れることが必要」と語った。

 立教大学の21世紀社会デザイン研究科特任教授で不二製油グループのCEO補佐も務める河口眞理子氏は「投資家も企業も専門用語ではなく、一般の人が理解できる言葉で(ESGを)語ることが大切だ」と指摘した。

 地球環境問題の解決に貢献するグリーンイノベーションに関する議論では、福山氏が「日本では省エネやリサイクルの技術は普及しているものの、産業化で後れを取っている」と指摘。「長期的なビジネス展望とそれに対する戦略の欠如が課題だ」などと指摘した。

■グローバル投資家が注目するESG課題と投資戦略への組み込み

 続いて「グローバル投資家が見るESGのホットトピックと投資戦略への組み込み」と題するパネルディスカッションが行われた。注目しているESG課題として、参加者からはソーシャルメディア企業が抱える課題や不動産などインフラ資産へのサイバー攻撃などが挙げられた。それらのESG課題について、世界銀行グループのフィオナ・スチュワート氏は「投資家にはそれぞれ注目している課題があり、問題はその課題をどうグローバルな視野で実装していくかだ」と指摘し、規制の重要性やESGのどの項目が各国にとって重要であるかを考えることも非常に大切なことだと述べた。

 ESGインパクトの評価やESG組織の在り方に関する議論も交わされた。米投資会社カルバートのアンソニー・エイムス氏は「米国ではESG情報の開示に取り組む企業の割合が5年前までは2割に過ぎなかったが、今や9割以上の企業が関心を持ち、情報開示に取り組んでいる」と指摘。そのうえで「ESGのパフォーマンスに優れている企業はコロナ禍においてもそのパフォーマンスを維持するか、コロナの影響を大きく受けていないことが分かっている」と述べた。また、仏アクサ・インベストメント・マネジャーズのコア事業部門のハンス・ストーター氏は、ESG組織の在り方について「アクサはESG部門を完全に廃止した。ESGや責任投資に関する部門は組織の初期段階では必要だが、ESGが標準的な投資プロセスとして組み込まれてしまえば、もはやそういった部門は必要がなくなる。責任投資のヘッドはCEOが務めるべきだ」などと語った。

GPIF「建設的な対話促進などでスチュワードシップ責任を果たす」

 午後に行われたこの日2回目の基調講演では、GPIFの小森博司市場運用部次長がGPIFにとってのスチュワードシップ活動の意義などについて説明した。小森氏は「運用受託機関と投資先との間で、持続的な成長に資するESGも考慮に入れた『建設的な対話』を促進することで、長期的な企業価値向上が経済全体の成長に繋がり、最終的に長期的なリターン向上という形で『Win-Win環境』の構築を目指すことにより、スチュワードシップ責任を果たしていく」などと話した。また、小森氏は「企業と投資家が共通の時間軸を持ち、課題を共有し、企業価値向上につながるエンゲージメントが行われることを期待している」と述べた。そのために「投資家サイドはESG課題を含む非財務情報の分析が必要であり、企業側でもそれに資する適切な情報開示が求められる」などと語った。

■運用機関・アセットオーナーにとってのスチュワードシップ責任とは

 午後のパネル討論では、テーマ別探求として「運用機関そしてアセットオーナーにとっての進展するスチュワードシップ責任」が取り上げられた。

 2020年のスチュワードシップコード改訂の評価について、財務省主計局の高田英樹氏は「再改定の一番大きな要素は”サステナビリティ”が全面に出たこと。スチュワードシップ責任の中核に位置付けられた印象だ」と語った。

 年金シニアプラン総合研究機構の矢部信特任研究員は「企業年金の立場から見ると今回の改訂はサポーティブに感じた。再改定で『自らの能力や規模に応じて』と示されたことで、規模が小さい委託運用を抱える企業年金に寄り添っている。また、規約型年金も母体企業としてではなく企業年金としてコードを受け入れることができると示された。会社が持つ株式と企業年金で持つ株式では受益者が異なるので、明確に線引きをして受託者責任を果たすように改訂した。最後にコンサルティング会社の独立性・中立性を明記したこと。コンサル会社はこれまで企業年金の人材・知識不足をサポートしてきたが、独立性を持つよう明記したことはプラスに働く」と述べた。

 投資家のアクティブ・オーナーシップ戦略に関する論点では、三菱UFJ信託銀行の資産運用部副部長兼フェロー、三橋和之氏が「エンゲージメント議決権行使、投資行動の3つについて強弱を付けて実施している。長期投資の観点ではアクティブ投資・パッシブ投資共にエンゲージメント議決権行使に比重がかかる」などと述べた。

 視聴者から、スチュワードシップ戦略の実行に向けての人材確保・強化に関する質問が出た。これに対し、三橋氏は「企業対話を行うアナリストが四半期思考を脱却するよう時間をかけて働きかけてきた。人材獲得の際にもスチュワードシップの重要性を呼び掛けたい」などと語った。高田氏は「公的年金にとっても(人材確保は)重要な課題だ。インベストメントチェーンの上流にいるので、気候変動を含めた外部動向に広い視野を持つ人材を確保したい」と語った。

■社会(S)の考察:働きやすさやダイバーシティ、インクルージョン

 この日、最後となった討論では、2回目のテーマ別探求として「Sについて考える:企業の成功を後押しする働きやすさ、ダイバーシティとインクルージョン」について議論が交わされた。

 経済協力開発機構(OECD)の東京センター長、村上由美子氏は国際比較でみた日本のダイバーシティの状況を説明。女性役員の登用についてこの数年前進しているものの、他国のスピード感はさらに速いと指摘した。また、「女性就労者が伸びても活躍できているかは別問題で、スキルや才能を生かし切れているかと言えばイエスとは言えない部分がある。ダイバーシティがあってもインクルージョンされていないとイノベーションは起きない」と問題提起した。

 さらに村上氏は、コロナ禍におけるダイバーシティの変化について、「リモートワークでは女性の方が、生産性が下がりやすいというトレンドが各国で見えている」とし、その一例として「コロナ以降にアカデミアが出す論文の性別動向を見ると、女性学者の発表率がガクッと下がった」ことを挙げた。村上氏は「リモートワークが主流となったことで、家事や育児などいわゆる『無償労働』における男女差が影響している可能性がある」と指摘した。

 議論に参加した丸井グループのサステナビリティ部長兼ESG推進部長、関崎陽子氏は「テレワークに慣れるのは辛い。生産性が落ちていることは自分自身も含めて感じている」などと女性の生産性低下について同調した。そのうえで、丸井グループとして従業員の適応力を強化するための取り組みとして、「オンラインで業務をうまくやっているチーム(部門)もある。また、丸井グループはスタートアップに出向しているメンバーも多く、彼らはテレワークが当たり前になっており、イノベーションに繋げている彼らの先行事例も聞く。これらのグッドプラクティスを共有しあっている」ことなどを挙げた。

 日興アセットマネジメントの株式運用部長、中野次郎氏は「ダイバーシティとインクルージョンは投資リターンとの”正”の関係があると信じている。ダイバーシティを進められない企業は未来がない」と述べた。中野氏は、企業の役員に占める女性割合の向上を目的に活動する「30% Club Japan」の目標(TOPIX100の取締役会に占める女性割合を2030年に30%にすること)に会社としてコミットしているとしつつ、「この数値も物足りない。女性50%・男性50%(50・50)の早期実現が必要であり、そうならなければイノベーションも生まれてこない」と指摘した。そのうえで「実現には経営トップの意識改革が必要で、投資家として50・50の考えを日本企業のすべてが目標とするよう求めていくことが必要」との考えを示した。

 女性取締役を増やしていく対策として、村上氏は「資本市場・投資家の力が一つの突破口になる」と指摘。「米国では投資家のプレッシャーを受けて対応する企業も実際にある。形から入るのは悪いわけではなく、実際にやってみれば良かったというのもある」と述べ、投資家の役割に期待感を示した。

=②に続く

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